カイをかいてます

 貝との出会いは50年前、新卒教員として岩井海岸の養護学園に赴任し、子どもたちと海岸で貝拾いに熱中したことでした。いつの間にか、かなりのコレクションとなり、拾うだけでは種類を増やすことが難しくなり、買い集めることも多くなりました。
 どの貝もそれぞれ魅力的ですが、中でもタカラガイの仲間に心惹かれます。「日本三名宝」と言われるオトメダカラ、ニッポンダカラ、テラマチダカラのうち、オトメとニッポンは数年前にやっと手に入れたのですが、テラマチダカラはまだ稀少品で高価で高嶺の花です。
 絵のモチーフとしての魅力も感じ、数十年前から折に触れて描いてきましたが、単に貝殻の美しさ、魅力を写生するというだけの絵が多く、本気で貝と取り組むような追求はしてきませんでした。
 伊藤若冲の作品の中の「貝甲図」という絵を「みずゑ」誌で観てショックを受けたのは39年前でした。それ以来、いつかは自分も自分なりの「貝甲図」を描いてみたいものだという気持ちを持ち続けていました。でも、自分なりの「貝甲図」とはどんなものになるのか、イメージは湧かず、ぼんやりとした気持ちだけが続いていました。
 近年、貝のモチーフと本気で取り組んでみようかな、とも思うように
なってきました。一つの貝を色々な方向からスケッチしてみたり、デザイン画風、イメージ画風、心象画風にまとめてみようと試みたりという表現方法からの模索と、貝殻というものの中に秘められた様々な要素、宇宙の中の一つの生命体としての存在、人類との関わり(美術・文学・食物・装飾品、貨幣、等々)、海との関わり、そして自分との関わりなどをいろいろな面から捉え直してみようとする模索とを続けています。
その模索から生まれたの一つの形として、昨年の第21回平和を願う美術展に「海の記憶」「砂の記憶」の2点(ともに50
号)を出品し、好評でした。
 そして、今、自分なりの「貝甲図」への試作の一つとして、若冲の「貝甲図」を油絵で模倣したM50号を制作中です。模写でもなく、自分の創作でもなく、洋画とも日本画ともつかない、改作に近い、中途半端な取り組みですが、若沖の奇抜さ、斬新さ、構成・構想力、写実力、想像力、創造力などの凄さを感じながら、私のコレクションを取り入れながら、描いています。